2025/10/15

腎臓を守る『クレアチニン』と『運動』の正しい関係

透析回避を目指す適度な運動とは?

慢性腎臓病(CKD)と診断された方にとって、「クレアチニンの値」は常に気になる指標でしょう。そして、「腎臓が悪いのに運動しても大丈夫?」という疑問や不安を抱える方も少なくありません。

クレアチニンは、筋肉の活動によって生まれる老廃物です。
なので、腎臓の働きを測る重要な手がかりとなります。そのため、運動とクレアチニンは密接に関係しており、この関係を正しく理解し、賢く付き合っていくことが、透析回避を目指す上で非常に重要となります。

このコラムでは、腎機能とクレアチニンの関係を理解した上で、腎臓に負担をかけずに体力を維持・向上させる「賢い運動」の取り入れ方、そのメリットとデメリット、そして具体的な行動計画を、慢性腎臓病に悩む皆さんにわかりやすくお伝えします。

1. クレアチニンと運動の関係を理解する:なぜ値が変動するのか

まず、あなたのクレアチニンの値と、日々の運動(特に筋力トレーニング)がどのように関わっているのかを正しく理解しましょう。

クレアチニンの基本と腎臓の役割
クレアチニンとは:

主に筋肉内のタンパク質(クレアチン)が分解されてできる老廃物です。

腎臓が正常に機能していれば、このクレアチニンは血液中からろ過され、尿として体外に排出されます。

クレアチニン値が高い理由:

腎機能の低下: 腎臓のろ過能力が衰えると、クレアチニンが十分に排出されず、血液中に溜まってしまい値が高くなります。これがCKDの指標となる主な理由です。

筋肉量の多さ: 筋肉量が多い人ほど、活動量に関わらずクレアチニンの産生量が多くなる傾向があります。

運動とクレアチニン値の一時的な関係
激しい運動の影響:

筋肉を酷使する激しい筋力トレーニングや無酸素運動を行うと、一時的に筋肉の分解が進み、クレアチニン値が上昇することがあります。

この上昇は腎機能の悪化を示すものではなく、一時的な生理現象であることが多いです。

注意点: 検査前に激しい運動をすると、正しいeGFR(推算糸球体ろ過量)を計算できず、医師が腎機能を過小評価してしまう可能性があるため、検査前日は運動を控えるよう指導されることがあります。

2. 透析回避のための運動:腎臓に優しい「適度な活動」とは

透析回避の鍵は、全身の健康状態を改善し、血圧や血糖値を安定させ、腎臓への負担を減らすことです。そのためには、腎臓に負担をかけすぎない「適度で継続可能な運動」が非常に有効です。

🚶 腎臓病患者に推奨される具体的な運動行動
有酸素運動を主体にする:

行動: ウォーキング、軽めのジョギング、水中ウォーキング、サイクリングなど、酸素を取り込みながら行う運動を選びます。

目標: 1日合計30分程度を目標に、週に3~5日行うのが理想です。

運動強度は「楽~ややきつい」の範囲で:

行動: 運動中に会話ができる程度のペース(中強度)を維持します。息切れして会話が途切れるほどの激しい運動は避けてください。

注意: 運動の開始前には必ず主治医に相談し、運動の種類や強度の許可をもらってください。

レジスタンス運動(筋トレ)は軽めに:

行動: 自分の体重を利用したスクワットやかかと上げなど、低負荷で回数を多く行う筋力トレーニングを週2~3回取り入れます。

目的: 筋肉量を維持・向上させ、血糖値の安定を助けるためです。高負荷の運動はクレアチニン上昇や腎臓への負担を考慮し、避けましょう。


3. 腎臓病における運動のメリットとデメリット

運動は万病の薬と言われますが、慢性腎臓病を持つ方にとっては、腎臓へのメリットが非常に大きい一方で、やり方を誤るとかえって危険を伴うデメリットも存在します。

✨ メリット(透析回避に繋がる良い変化)
血圧の安定: 適度な有酸素運動は血管の柔軟性を高め、高血圧の改善に役立ちます。高血圧は腎機能低下の最大の原因の一つであり、その改善はeGFRの低下抑制に直結します。

血糖値のコントロール改善: 筋肉がインスリンの効きを良くし(インスリン感受性の改善)、糖尿病性腎症の進行を遅らせるのに役立ちます。

体力の維持とQOLの向上: 腎機能の低下に伴い体力が落ちやすくなりますが、運動によりそれを防ぎ、日常生活の活動の質を高めることができます。

精神的な健康: ストレス解消や睡眠の質の改善にも繋がり、病気との向き合い方を前向きにします。

⚠️ デメリット・リスク(避けるべきこと)
腎臓への過度な負担: 極端に激しい運動は、一時的に腎臓の血流を悪化させたり、クレアチニンを急増させたりする可能性があります。

脱水のリスク: 汗をかく運動時に適切な水分補給を怠ると、脱水になり、腎臓の血流が低下して急性腎障害を併発する危険があります。

怪我や体調不良: 関節の痛みや疲労が残るほどの運動は、継続を困難にし、かえって体調を崩す原因になります。

解決策: 運動中、運動後は必ず体調をチェックし、水分補給を適切に行いましょう。また、疲労回復を最優先とし、無理のない頻度で継続することが重要です。


4. 運動を持続可能にするための具体的行動計画

良い運動習慣も、無理をしてすぐに挫折してしまっては意味がありません。透析回避という長期目標のためには、「継続できる仕組み」を作ることが成功のカギとなります。

🗓️ 運動継続のための行動チェックリスト
運動許可の取得と処方箋:

行動: 必ず主治医に「どんな運動を、どれくらいの時間・強度で行いたいか」を伝え、運動処方(運動の許可と具体的な指示)をもらいます。

水分補給のルール化:

行動: 運動前、運動中、運動後にコップ一杯程度の水を飲むことをルーティン化します。医師から水分制限を受けている場合は、その制限内で計画的に補給します。

記録と振り返り:

行動: 運動内容(時間、種類、体調)を簡単な日記やアプリに記録し、クレアチニン値の推移と比較しながら、運動が体に与える影響を把握します。

「ながら運動」の導入:

行動: テレビを見ながら足踏みをする、歯磨き中にかかと上げをするなど、特別な時間を設けずにできる運動(生活活動)を増やします。

運動仲間の確保(推奨):

行動: 家族や友人、地域の活動などで、一緒に運動できる仲間を見つけ、モチベーションを維持します。


まとめ

クレアチニンの値と運動は密接に関係していますが、恐れる必要はありません。クレアチニン値を意識しすぎて運動を完全に避けるのではなく、**「腎臓に優しい、適切な運動」**を取り入れることが、透析回避への積極的な道となります。

激しい運動は避け、有酸素運動を主体とした中程度の活動を継続し、血圧・血糖を安定させることが、腎機能維持に最も効果的です。

賢く運動するための最終確認
運動は必ず主治医に相談してから始める。

会話ができる程度の中強度で、無理なく続ける。

脱水を防ぐための水分補給を忘れない。

検査前日は激しい運動を控える。

運動を通じて体力を維持し、病気の進行を遅らせることで、あなた自身の生活の質(QOL)を高め、透析を遠ざける力に変えていきましょう。

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